飛び込み営業こぼれ話。

月刊アキモト


九州は佐賀のあるところに
背中には冷や汗
名刺入れを持つ手は震え
36度の猛暑日に寒気を感じるほど緊張しているミニチュア作家の女がいた。

助手席に乗っているミニチュア作家というよりはアマチュア作家と呼ぶに相応しいその女を眺めていた男は、

「じゃあ行ってらっしゃい。頑張ってね」
「え!ついて来ないの?!」
「他のお客さんが来たら邪魔になるでしょ。ここで待ってるから」

と、普段はなかなか顔を見せない気配り発言カウンターパンチを繰り出しながら、はやく車から降りるように女を促す。

「ふぅ…」
ジャリ、ジャリ、と駐車場の砂利を一歩ずつ丁寧に鳴らしながら、深呼吸。

緊張してドキドキする時は、いま、自分の身体は最大のパフォーマンスを出す為に全身の血を巡らせて頑張ろうとしているんだ!よし!私も頑張ろう!と考えれば緊張がほぐれるよと、或るメンタリストが言っていた。うん。なんとなく落ち着いてきた気がする。


向かう先には一軒の可愛らしいパン屋があった。県内外問わず多くの人に愛されていて、美味しいと評判の「こなぎぱん」というお店だ。

実は佐賀に越してきてまだ半年なのだが、ハード系中心の美味しいパン屋さんがあるということを聞きつけ、自身も例外なくファンになっていた。これまで度々通っていたお店なのだ。


ガラガラッ「こんにちは!!(笑顔)

やってしまった。声が大きすぎだ。

中山きんに君の自衛隊訓練動画で「もっと声を出せ!!!」としごかれていたのを見過ぎたせいか、「パワー!!」的なノリでいってしまった。


恥ずかしい気持ちを悟られないように
目があった奥様にお声を掛けて「先日連絡した者です」、と身分を明かし

製作した作品をそそくさとテーブルに並べながら、ふと我に返る。


(…名刺渡してないやんワレーーー!!!!!!(;∀;)ギャー)

お店に入る前に握りしめていた名刺入れ。

なんと握りしめたまま次々と話を進めていたのである。(シンプルに失礼)

アマチュアがアマチュアたる所以、ここにあり。


奥様もさぞかし不審に感じたであろう
まず名乗りなさいよ、と。
ごもっとも!!!

気付いてから0.01秒で名刺を取り出して奥様に手渡すと、心なしか奥様の顔に安心した表情が浮かんだ気がした。

やはり名前を伝えるのは大切なことなんだな、と思った。(小学生)


精魂込めて作った「こなぎぱん」オリジナルピンバッジ。

旦那様、スタッフ様にも見ていただき、喜んでいただけたようで
お店に並べていただけることになった。
しかもお客様の目に留まりやすい一等地だ。


自身をミニチュア作家と名乗るこんな不審な女を優しく受け入れてくださるなんて、なんて懐の深い方々なのだろうか。その心はマリアナ海溝なのか。ぜひ見習いたい。


受け入れてくださった感謝と安堵の気持ちで胸がいっぱいになり、
あまり長居するのもご迷惑かなと思い、世間話もそこそこにお店をおいとました。

(実は朝から機械トラブルがあったそうで、キッチンも少し慌ただしい様子だった)


そして気付くのである。


置かせてもらった所の写真、一枚も撮ってない
なんなら皆さんに付けてもらった姿も写真に収めようと思っていた。


「まぁ良かったじゃん、お店に置いてもらえただけでも」
男は慰めの言葉をかける。
「そうね。そうよね…」


少し肩を落として帰宅すると、なんと奥様が

「陳列写真&身に着けた姿の写真」を送ってくださったのだ!!!
やはり奥さまのココロはマリアナだった。
もはや奥さまがマリアナなのかもしれない。



メンタリストよ、私の最大パフォーマンスはどこへお出かけ中なのか。

逃避思考の先に仁王立ちで待つメンタリストは容赦なく言う。


「野暮は言わぬ。努力に勝る天才なし。精進せい」

……ハイッ!!!


その夜、女は「3日でトップ営業マンになる方法」をポチったのがバレて更にシバき回されるのであった。


~ 完 ~



ということで、今回は小説仕立てでお送りしてみました。

「全然飛び込み営業じゃないじゃん!」
という声が聞こえましたね。あはは。

こなぎぱんのご夫妻、スタッフさま、本当にありがとうございました!!!

本当に皆様がお優しすぎて、ありがたいやら申し訳ないやらでした。
今回のことが笑い話になるまで一生懸命に精進します!

最後までお読みいただきありがとうございました♪

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